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レッスルSS第一回 「上陸! 熱血のーてんき娘」 その3。

 日本というのは騒がしい国だなぁ。
 これがユン・メイファの抱いた第一印象だった。
 しかし、自分はまだこの国の空港しか見ていない、ということに思い至り、素直に認識を改める。

「オーッホッホッホッホッホ!」

 日本の空港は騒がしいなぁ。
 佐尾山幸音鈴は頭を痛めていた。
 些か疎遠気味になっていたIWWFから久方ぶりに選手が来日する日と、ビューティ市ヶ谷がWWCAに遠征へ行く日とが折り悪く重なった。その、たった一つの「折り悪く」で、人はこんなにも頭を痛めることができるのかと驚きさえした。
(あたしにどうしろってんだ、こんなシチュエーション……)
 彼女の前には二人の女が立っていた。
 仁王立ちしていた。
 ビューティ市ヶ谷。
 ボンバー来島。
 かたや日本有数のパワーファイターであり、かたや日本屈指のパワーファイター。
 同じプロレスラーとは言え、小数点第一位を四捨五入して149cmの佐尾山からすれば、二人の仁王立ちは正に仁王の立ち姿そのものである。更に言えば、互いの発する気迫、オーラ、怒気の凄絶ぶりもまた仁王と呼ぶに相応しい。
 ……考えてみれば、
「オーッホッホッホッ! 祐希子の金魚のフン如きが生意気な!」
 と、いつもの高笑いを交えて挑発を繰り返す市ヶ谷と、
「そろそろ黙れよ、市ヶ谷……!」
 と、言葉少なに相手を威圧する来島とは、それぞれを阿形と吽形にも見立てられる。
 あぁ、それに仁王様って確か何かの門番なんだっけ。
 ということは、海外と日本の門とも言える空港のロビーに、二人の女仁王様がご光臨されたということだ。オマケにどちらも文句なしの美人の仁王。やあ、めでたい。これは大変おめでた
「オーホッホッホッホッ! わかりましたわよ! 所詮アジアヘビー王座止まりのあなたからすれば、一月後にはWWCAベルトを持って凱旋するこのワタクシが羨ましいのでしょう! 素直におなりなさいな!」
「ッめんなよ市ヶ谷ぁ! アメリカ行く前に病院にぶち込まれてぇかぁ!」
 とうとう吽形――もとい、来島の口から怒号が飛んだ。
 現実逃避もできやしない。

 一体何があったのか、と問われれば、まぁいつものようなことがあったのだ、と答えるしかない。
 IWWFの選手の出迎えにきていた来島と佐尾山が、偶然同じタイミングで空港に来ていた市ヶ谷と遭遇した。市ヶ谷は例によっていつものテンションと大声で喋繰り、最初は呆れるばかりだった来島も、いつも以上にハッスルする市ヶ谷のタカビー振りにいよいよ腹を立てた、ということだ。
 案外。今この場にいるのがビューティ市ヶ谷と犬猿の仲であるマイティ祐希子であったなら、ここまで空気が悪くはならなかったかもしれない。顔を合わす度いつでもどこでも喧嘩喧嘩の二人が今更いがみ合った所で何でもないし、お互いすっかり慣れてもいるので、意地の張り場所や引き際も十分承知している。
 一方ボンバー来島は、日頃はそんな二人が熱くなりすぎるのを諌める立場だ。だが、もちろん来島も市ヶ谷のことを決して好いてはいない。どちらかと言われれば迷いなく大嫌いと答える程度には嫌いである。
 南や羽田のように器用に対応ができるわけでもないし、小沢のように大らかにもなれず、売られた喧嘩は基本、買う。
 祐希子を抑えるという役割がなくなった今この時。今回の遠征で既にベルトを取った気になっている、常にも増してハイテンションな市ヶ谷を相手取り、来島は完全にエキサイトしてしまっていた。
 リングの上ならそれでもいいだろうが、ここは海外と日本を繋ぐ門である。乱闘になっては事件だし、今のままでも十二分に日本の恥さらし状態だ。
(だけどどうしろってんだ、このシチュエーションで)
 佐尾山の思考は堂々巡りだった。玉砕覚悟で二人の間に割って入って、果たして彼女らを止められるだろうか。下手に興奮させて仁王のダブルラリアットなぞくらっては洒落にならない。
 だが、今この場で彼女らを何とかできるのも自分一人だ。そもそも、周りの人間は半径3m以内に入ってもこない。
「オーッホッホッホッホッホ! あなたは大人しく祐希子の腰巾着にでも収まっていればいいのですわ!」
「今すぐその喧しい笑い声を止めやがれ! でなきゃなぁ!」
「でなければ、なんですの!」
「でねぇと――!」
 状況はいよいよ逼迫している。正に一触即発――否、何が触れなくとも、自然発火は目に見えている。
(……今日があたしの、命日か!)
 ついに、佐尾山は覚悟を決めた。ビューティ市ヶ谷はともかく、尊敬するボンバー来島に殺されるのなら本望だ。
「お、お二人とも――!」
 決意と共に発せられた声を受け、四つの瞳がギロリと動いて佐尾山を睨んだ――その時。

――ピルルルルル♪ ピルルルルル♪

 飾り気のない着信音が、佐尾山のポケットから鳴り出した。
「す、すンません! 電話かかってきたんで、声のトーンを落としてくださいッ!」
 佐尾山は咄嗟に状況を利用した。
 思わず口を付いて出た言葉だったが、言い切った後から思えば、どう考えても人を宥める言葉ではない。いやむしろ、後輩が先輩に対して言うには、ややもすれば失礼なくらいである。
 だが、もう、いい。
 既に覚悟は決めているのだ――
「……電話か。IWWFの奴かな」
「……電話じゃあ仕方ありませんわね。全く、無粋な」
 が。仁王様方は変なところで良識があった。
(せ、せっ――生っ還っ!)
 この日、初めて偶然というものに悪態をつかず感謝をした。
 上擦る声を努めて抑え、たどたどしさの残る英語で電話に出る。
「も、もしもしっ!」
『あ、もしもし? えっと、ニュージャパンの人ですよね?』
 電話の向こうからは、先程までの胃痛が馬鹿らしくなるくらい、リラックスした声が届く。まだ少しブツブツと言ってはいるが、すっかり静かになった二人の横でなら、十二分に聞き取れる元気な英語だ。
『さっきの飛行機で無事に着きまして。
 えーっと、それで待ち合わせ場所、のはずのロビーには来てるんですけど、思ったより広くて……」』
 少し違和感を感じる、不自然な発音。今回は韓国人の若手も来ているということだったから、きっとその選手だろう。
 事前に聞いた顔がないかと、来島と市ヶ谷を中心に形成された人の輪を見回してみる。
「あぁ、こっちももうロビーにいるから、周り見てどの辺りにいるか言ってもらえれば――」
『「あ、それならですねー」』
 明るい声。日本人にはむしろ聞き取り易い発音。
 そんな中、まだ感じる違和感。
『「わかりやすい目印になりそうな人見つけたんで、今その人の横にいるんですよー」』
 ……声が、ダブって聞こえてる?
『「さっきから往来で馬鹿笑いしてたちょっと残念な人達がいるじゃないですか。今少し静かになったみたいなので、その人の近くでまっわぁぁぁあ!?」
「な、ん、で、すってぇ、この小娘がぁ!」
「わぁああ! 止めろ市ヶ谷ぁ、頭冷やせ! おい、さおさお、お前も止めろ!!」
 振り返りたくない。
「なにぃぃ、なんなのぉぉぃ!?」
「IWWFの小娘が! このワタクシ相手になんという物言い!」
「落ち着け市ヶ谷ぁ! こんなトコでボムしたら死んじまうぞぉ!」
 振り返りたくないぃぃぃ!
「いやぁぁあ、オンマァー!」
「オーホッホッホッ!」
「さおさおっ! 佐尾山ぁ!」
「うわぁぁ! ちくしょぉ、阿形のバカヤロー!」



 ユンは認識を改めた。
 日本、バイオレンス。
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