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レッスルSS第一回 「上陸! 熱血のーてんき娘」 その2。

 YAHHHHHHHHHHHHH!!!

    “SMAAAAAAAASH!
     リトルショットガンのバックブロー! ユンの顔面が撃ち抜かれた!
     掌底のラッシュをかわした筈が!”
    “ショットガンからライフル弾が飛び出してきたぜ!”
    “ライアンもユンも、体格は小さいが、バネがあります”
    “一流の選手には必要不可欠な素質だ”
    “ライアンがカバー。これは決まるか?”

 ONE! TWO! ――――
 ――ユン・メイファがアメリカに渡って二年が経った。
 ユンの所属する「モストポピュラーレディープロレスリンググループ」ことIWWFは、アメリカ西海岸に居を構える米国最大の女子プロレス団体だ。
 そして、米国最大ということは即ち、世界最大の団体ということでもある。
 すなわち、その選手層の厚さもまた、世界最大。
 業界第二位のWWCAにトップヒールのダークスターカオスを、そして“ヒットマン”スナイパーシスターズを引き抜かれ、その大IWWF帝国に翳りが見えつつあるものの、“天からの逸材”クリス・モーガンを筆頭に、レミー・ダダーン、ザ・USAなど、まだまだ魅力あるスーパースターたちには事欠かない。
 そして、未だIWWFのリングには立てないまでも、傘下の地方団体の練習生やミコル道場などの門下生、他のスポーツで既に実力を示している者等々――フロント陣が目をつけている選手は数多くいる。そればかりか、利害の一致を見さえすれば、海外やライバル団体の選手でさえも「明日のIWWFスター」となりえるのだ。
 運と才能に恵まれた一握りを除いて、ほとんどの者はその無数のライバルの波に呑まれ、消えてしまう。
 しかしユンはそのIWWFでデビューした。それも、半年ばかり基礎的なプロレスのトレーニングを積んだだけでの大抜擢。今では全米でも数少ないアジア系のベビーフェイスとして、新人の中でもトップクラスの人気を誇っている。
 ユンに才能がなかったわけではない。わけではないが、彼女は間違いなく大きな幸運にも恵まれていた。
 アジアの基準で見てさえも、小兵と呼ばれるユンである。仮に、彼女がIWWFへと押し掛けたのが後一年早ければ、彼女の熱意も報われず、よくて色物ヒールとなるのが精々だったろう。
 既にテコンドーで名を成していたとはいえ、IWWFが彼女を受け入れ、あまつさえ僅か半年でデビューの機会を与えたのには、理由があった。



    “返した! ユンはまだ立ち上がるぜ!”
    “ライアンのエルボースマッシュ! これも耐える!
     ヘッドバッド!”

 YAHHHHHHHHHHHHH!!!

    “HOLY SHIT!
     ヘッドバッドに頭突きをぶつけた!”
    “ナリは小さくても、ガッツはモーガンやダダーンに負けてない!”
    “まるでカミカゼ! 二人とも退かない――またヘッドバッド!”
    “元祖カミカゼファイターとの対決を見てみたいなッ!”
    “まったく同感です――”



 ――“カミカゼファイター”菊池理宇。
 新日本女子所属の「神風娘」の名がアメリカマットに広く知られるようになったのは、まさにユンがプロレスに魅入られた丁度その頃だ。
 アテナ・クライマックス。
 それは二年前、IWWFがその威信を賭けて行なった一大シングルリーグだった。IWWFに現れた暗黒の超新星・ダークスターカオスへの挑戦権を賭けて、世界のトップレスラー10人によって行なわれた45戦のドリームマッチ。それは、MSGを熱狂的なファンと興奮とドルで埋め尽くした。
 そのアテナ・クライマックスに、菊池理宇はメキシコAACからの特別推薦枠として参戦していた。一勝七敗一分と、数字の上での戦績こそ振るわなかったが、僅か61インチの彼女が巨大なチャンピオンたちに臆せず立ち向かい善戦する様は新鮮且つ衝撃的で、アメリカのプロレスファンたちに与えたインパクトの程は計り知れない。
 アテナ・クライマックス勝者の栄冠――そしてIWWFヘビー王座・アテナクラウンを、日本人マイティ祐希子に奪取されるという苦渋に塗れながらも、IWWFのフロント陣はビジネスチャンスに目を光らせていた。
 ファンには「キクチ」を求める潜在需要がある。
 それまでアメリカ人受けのし易いパワーファイターに偏りがちだったIWWFは、すぐさま彼女のように小柄ながらガッツを持った選手の獲得に走った。
 プロレスを、それもアメリカという土地でやろうという人間に、小さい選手は決して多くない。それに、最低限の実力もなければ、小さかろうと根性があろうとお話にならない。
 しかして、業界最大手はダテではない。その年の内に手早く目を付けたのが、地方のインディペンデントでルチャドーラギミックでのデビューを図っていたエレナ・ライアンであり、メキシコの傘下団体WWAからスカウトしたルナ・アルパナであり――絶妙のタイミングで向こうからIWWFに飛び込んできたユン・メイファだったのである。
 その内の二人――エレナ・ライアンとユン・メイファによるこのシングルマッチは、IWWFのとった新戦略の一つの集大成と言えた。



 YAHHHHHHHHHHHHH!!!

 リング中央。
 大歓声を背に受けて、二人のスター選手の卵たちは、互いにもたれ掛かるように体を預けながら耳元で小さく呟きあう。
「ボクは、まだ、やれるよ……?」
「こっち、だって――まだまだぁ……」
「……じゃ、コレ、耐えた方の勝ちだ……」
「恨みっこなし、だからね――!」
 それだけ言って、二人は呼吸を整えた。
 そうして、二人は振りかぶる。
『――せぇーのぉ!!』

    “JESUS! 三回目!”
    “信じられない、彼女らはウチの娘より小さいんだぞ!?”
    “小さくても彼女たちはレスラーなんです!”

 衝突しあった勢いに任せ、たたらを踏んで二人は離れた。
 体と一緒に吹っ飛びかけた意識を強引に引き戻し、拳を握ってユンは構える。
 自分と、そう背丈の変わらない赤毛の少女は、額を押さえてふらついていた。
 悪いけど――とは、思わない。恨みっこなし、だからだ。
 素早く、たたん、と小刻みに踏むステップは、十年以上打ち込んで体に染み付いた、自然なステップ。
 歓声が飛ぶ。このスタンスを取ることが、今から繰り出す一撃のためのアピールでもあると、観客たちは知っている。
「必殺の打撃、受けてみろーッ!」
 そう叫ぶ声も、振り上げた足がエレナの側頭部を弾く音も、歓声の中に紛れて消える。
 ただ、その足に残った感触だけは確かで、倒れたエレナの上に自分も倒れこむようにして、ユンは彼女を押さえ込んだ。

 ONE! TWO!

 レフェリーと観客の声が重なる。

 THREEE!!

 昂揚の中、長く短いスリーカウントが数えられたコトを感じた瞬間。
 それで、張り詰めた気が緩んだのか。
 あぁ、ちゃんとアピールをしなきゃ、と思いながらも。
 ユンの意識は泥のようにぐにゃぐにゃで、不明瞭なモノの中に落ちて――






「――と、言うわけだ。分かったかい、ユン・メイファ!」
「……え?」
 落ちて、戻ると、目の前にジム・マクファソンが立っていた。
 ジムはIWWFのプロモーターだ。ビジネススーツに身を包んだ、細面で眼鏡の似合う、良くも悪くもヤサオトコな男。だがその外見に反し、強引な手も容赦なく使う辣腕振りで知られている。
 彼はレスラーではないが、IWWFの一員であることには変わりない。時にはオフィスの時の姿そのままに、リングに上がってマイクを持つこともある。
 今、この時のように。
「あれ、私……」
 意識がハッキリしてくると、ユンはまだ自分がリングの上にいることに気付いた。スリーカウントを聞き、そのまま寝返り打って仰向けに倒れこみ――ぼんやりとした記憶をもそもそ引き出していると、しゃがみ込んだ自分の前にマイクがちょこん、と置かれているのが見えた。
 試合中以外に喋る時は、必ずマイクを使え。日頃からそう教育されていることを思い出し、何はなくともまずはマイクを握る。
「あ、あー……」
 マイクを通した自分の声が、会場中に流れる。感度は良好。
 キョロキョロ辺りを見回すと、ロープにもたれ掛かっていたエレナが目に留まった。
 つい先程まで互いに死力を尽くして戦っていたエレナだが、試合が終われば友であり仲間だ。
 ……困った時は仲間に頼るに限る。
「エレナ――今の聞いてた?」
 ジムとエレナ、そして会場中の観客の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。何をする気かわからないが、話を振られて無視をするわけにもいかないので、エレナはジムからマイクを受け取り、それに応じた。
「……なにさ。
 ボクの方には不満はないよ。悔しいけど、今の勝負はユンの勝ちだった」
「いや、あのー、さ。
 さっきの試合の後で、意識が朦朧としてて。
 だから、その――プロモーターが何て言ったのか、こっそり教えて?」
『おいっ!?』
 ジムとエレナの声が、マイクの有無はあるにせよ、見事にハモる。
「や、直接は聞きづらいじゃない? だからエレナに聞こうかなって」
「マイク使って当人の前でソレ聞く!?」
「だって、喋る時はマイクを使えっていつも言われてるじゃない!」
「キミまだ脳ミソ揺れてるだろ!?」
 ――古今東西・万国共通の法として。
 天然という生き物は、ウケる。
「もういい、もういい! もうっ、いいっ!!」
 観客の爆笑の中で再度マイクを手に取って、シリアスな演出を諦めたジムは、ただ思いっ切り大きな声を張り上げた。
「もう一度だけ言うぞ!
 ユン・メイファ! ――日本へ行ってこい!」
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